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第十一話 アリスラーメン
お詣りを済ませた麻雀部一行。よく見たらスグルがいない。
「あれ? お兄ちゃんいない」
「はぐれたの? 子供じゃあるまいし」
「私達は子供だけどね」
「じゃあ私達が実ははぐれたってこと? 1対9だけど」
「いやそれは変でしょ」
と話していたらスグルが現れた。
「どこ行ってたの? お兄ちゃん」
「ちょっとこれ買ってた。ほらお前も」
それは学業のお守りだった。
「受験生の分は買ってきたから、3年生のみんなは頑張れよ!」
「「ありがとうございます!」」
カオリはもう神様の存在は信じざるを得ないのでこういうアイテムは本当に嬉しかったし、信仰心ゼロのミサトも、そうは言ってもお守りを渡されればその気持ちが嬉しかった。
「お兄ちゃんったらホンっとイケメンなんだから! ありがとうね」
「おう、じゃあそろそろ腹減ってきたしなんか食うか!」
するとミサトがケータイを開いて地図を見せてくる。
「実はココに行ってみたいなっていうお店があるの。『アリスラーメン※』って言うんだけど」
「住所はみやなか7丁目…… ちょっと遠いんじゃない?」
「ま、いいんじゃない? 少し歩いて疲れた方がお腹もすいて美味しく食べれるわよ」
「ミサトはタフだからなあ。でもまあそれもいいか! 歩こう」
場所を知らない状態で歩くのはけっこう時間がかかった。
「あ、見てミサト。あれの読み方『みやなか』じゃなかったみたい」
見てみると交差点の名前にKyucyu-Koban-Maeとある。きゅうちゅうこうばんまえ。
「あーー『宮中』ってきゅうちゅうだったんだ」「神様がすぐそこにいるからだね」
一行はそんな事を話しながら歩く、そろそろ疲れたな。まだかな? 道はまっすぐ行くだけだと思うんだけどなぁ。と思っていたら……
「あった! あれだ」
今歩いている道の先。道が左に曲がるカーブになっている所にアリスラーメンはあった。探しながら歩いたから遠い感じがしたが場所を知ってしまえばそんなに気になるほどの距離ではなさそうだと思った。
10名は多いので2カ所のテーブル席に案内された。店内はとてもきれいでラーメン屋というより小洒落た焼肉屋に近い作りだった。
「ミサトはよくこんな良いところ知ってたわね」
「せっかくみんなで初詣に行くんだから美味しいものを食べに行きたいなって思ってずっと調べてたのよ」
カオリはチーズトマト坦々麺を麺大盛り辛さ2で頼んで焼き餃子もつけた。もう、お腹がかなり空いていたし食べ切れなければマナミにあげちゃえばいいやと思っていた。マナミはラーメンが大好きでいくらでも入る。
「どうぞ、お冷です」と店員さんが出してくれた水はレモンが入っていてとても美味しかった。
「はい、チーズトマト坦々麺辛さ2と焼き餃子ね」
「……おいし!」
麺は辛い味付けにチーズが入り、それが丁度いい具合に辛味をマイルドにしていていくらでもいけた。焼き餃子は焼き加減が絶妙で皮がパリパリとして美味しい。
普段はスープを飲まない派のカオリだったがこのスープは飲み干した。スープを飲み干してからふと(このスープにライスを入れても良かったな)と思ったがもう飲み終えていた。
美味しすぎてみんな無言だった。ずいぶん早く食べ終えてしまったなと思ったがみんなももう食べ終わろうとしてた。全員完食だ。スープもない。
「ごちそうさまでした! たいへん美味しかったです!」
会計はスグルが持ってくれた。今日のスグルはいつになく太っ腹だ。
アリスラーメンの店主は満足そうにして帰るカオリたちをとても嬉しそうに見送った。
◆◇◆◇
※ちなみに、アリスラーメンは実在するラーメン屋さんをモデルにしています。店主さんの許可を得て載せています。
136.サイドストーリー2 厳重注意!前編 花岡縁(はなおかゆかり)はスラリとして美しく、可愛らしい。若くて、一生懸命な女子メンバーだ。 彼女は学生時代に付き合っていた彼の影響で麻雀を好きになった。そして、好きが高じて雀荘で働く事に。それは幸せな仕事だった。 もちろん仕事だから疲れることもあったが仕事といいつつも麻雀を打てたし、麻雀さえしていれば時間が過ぎるのはあっという間だ。「花ちゃんお疲れ様! 今日はもうあがっていいよ」「ありがとうございます。お疲れ様です」 労働時間は短くはない。大変ではあったが花岡は充実していた。 しかしその後、ビルそのものが老朽化しているという理由からこの店はもうすぐで閉店になるのだと聞かされた。こればかりはどうにもならない。「そんなのないですよ。それじゃあさ、数ヶ月しか働けないって決まってたってこと? なのになんで私を雇ってくれたんですか」「ごめん、花岡さん。でも最後の日までお客さんを楽しませたかったし、花岡さんみたいなかわいい女の子が麻雀を好きで、ここで働きたいです。なんてこと言ってくるなんて、そんな奇跡が起きたなら雇うしかない! って思っちゃうじゃないか」「ムゥ…… そんな風に言われたら怒れませんね。ずるいです」「とにかく、ここはもう閉店なんだ。仕事覚えて楽しくなってきた所で悪いんだけど…… ホントにごめんね」「別の場所に移転するとかは考えないんですか」「探してみたけど、いい所が見つからなくてね。仕方ないから、しばらくは休むとするよ」「そ
135.第十六話 天才女流5期四天王 福島弥生(ふくしまやよい)はドッジボールでは最後まで残るタイプだった。 ぶつかりたくない。痛いのは嫌だ。 そんな事を思っていたら最後に残る、そんな子だ。 麻雀も同じで、最低限だけ、効率的な場面だけ前の方に出ていき、あとは引っ込んでいる。それでいい。それが勝てる。そう信じていた。しかし。「ツモ!」「ロン」「ロン」「ツモ」「ツモ!」(な、なんなのこの子達…… もう少し引っ込んでるってことはできないわけ? 逃げることなんて考えてない…… 何人先制されようと受けながら前進してくるじゃない。まるでカンフー。『換歩(かんぽ)の踏み込み』だわ。だめ、受け切れないっ! 私の守備力じゃもたない…… なんて、なんて女たちなのよ!) 要所要所でアガる麻雀はミサトも得意としたがミサトの打撃は打点が高いからそれも可能。しかし福島は特別高打点打法というわけではないのでこうも受けていては持ち点が足りなくなるのだ。(ダメだっ…… 私も手を出していかないと)フゥ、フゥ(やだな、いつのまにか呼吸が荒くなってる…… この子たちと打ってるとやたら疲れるな) 普段やらないスタイルを強要されたことで疲労が溜まる福島。しかし、やらなければジワジワと削られて消耗するだけ。肩で息をしながらも勝つ可能性に賭けて前に出る。「ロン」(なんなの! もうー!)「12000」
134.第十伍話 戦闘スタイル 成田メグミは喜んでいた。(この20人しかいない女流リーグであの子たちに当たらないで済んだのはツイてるわ! 今日はたくさん勝てそう) ウキウキしながら挑む。もはや対戦相手は誰でもいい。あの子たちじゃないのなら。ベテラン選手であるメグミがそう思うくらいにはカオリたちは強かったのだ。一回戦 5200放銃を3回するも跳満を3回ツモってトップ。二回戦 4000オール。2000は2100オールを決められるも18000直撃して逆転。そのままトップ。三回戦 5回も放銃しつつも親満を2回ツモで気付けばトップ。四回戦 東1局に倍満を放銃するもその後は全員にほぼ何もさせず終わってみれば圧倒的なトップ。(どうだ! 私だってあの子たちさえいなきゃ容易くトップになれるのよ!)「見てたわ、メグミ。強かったじゃない」「アカネさん!」 そこには女流Aリーグ所属の杜若茜(かきつばたあかね)がいた。「放銃が多いのは相変わらずね」「はい! あれが私の戦闘スタイルなので!」「そうね、あなたは踏み込むスタイルのプロ。1番格好いいスタイルよね。誰でも出来るものではないわ。私も尊敬してる」「尊敬なんて…… へへ。私に出来ることは接近戦なんで。相手の拳が届く位置まで踏み込むからこそ私の鉄拳が炸裂するということですね」 そう言ってメグミはグッと拳を構えて見せた。さながらインファイトを得意とするボクサーのようである。「不器用だけど強烈な。そんなあなたの麻雀にはファンも多いし、そのまま勝ち続けたらいいわ。私は女流Aで待っているから」「私はすぐにAに行きますので待たせません。きっと、かわいい後輩と一緒に、そこに行きます」
133.第十四話 麻雀AI福島弥生 3人がぶつかり合う中で1人冷静に状況を見ている者がいた。4人目の女、福島弥生(ふくしまやよい)である。 そう、今期でC2リーグに昇級した1人だ。彼女もこのゲームに参加していた。 彼女の麻雀は余計なことをやらない麻雀だった。例えば、自分が手が悪い時。それでも前に進むのが普通の考えであると言う人は多いし、それが正解かもしれないが。彼女は進まない。既にこの局の先手を取られた時の対応策に焦点を当てている。なのでいつまでは危険牌を捨て、いつから安全牌切りに切り替えるかの絶妙な使い分けが非常に上手い。 無駄な失点はしない彼女は常にトップ逆転が可能な位置に自分を置いて終盤戦のチャンス局に集中して攻めるゲームメイクを得意とした。それ以外の局はAIのように撤退をし続ける。まるで感情がないかのようだ。(福島さんか…… この人、すごいわね。大体で打ってる私とは真逆の存在だわ)《そんな事はありませんよ。あなただって充分深く考えて打っているじゃないですか。でも、確かに、この福島さんという方からは強者のオーラが見えますね》(やっぱり? 私にも緑色っぽいのがボヤ~っとだけど見えるのよ。常時オーラ纏ってる人は久しぶりに見たわ) すると福島から急に『ゴワッ!』と緑色の炎が上がる。(ように見えた) オーラを視認出来るカオリとマナミはビクッ! としてしまう。「リーチ」 福島弥生の初リーチだ。(絶対に高い……! 万が一にも放銃は出来ないな)と思って対応するカオリ。 マナミもそうは思っていたのだが……マナミ手牌二三四伍六①②③55556&nb
132.第十三話 威嚇 ミサトから満貫をアガったことにより8000加点したカオリ。それはミサトと16000点差ついたと言う事だ。それくらいは理解していた。しかし、ミサトのあの様子を見てマナミは鋭く察知していた。 おそらくミサトは選択ミスによりアガれる手を逃している。そもそも、アガれる手がきてないのにあのミサトが捨て牌3段目から放銃なんかするもんか―― と。 だとすれば、つまり12000を多分カオリが振ってたんだろう。そういう選択も可能だったと読むとカオリと24000点差つけてトップ目に立つはずが、逆に16000点差つけられてラス目になった。それはまだ東場なので順位点のことは無視するとしても、それでも上下40000点の違いがあるということ。そこにマナミだけは気付いていた。なのでこのゲームは驚異的ファインプレーをしたカオリを警戒していかなければならない! とマナミの本能が警鐘を鳴らす。 するとカオリが動き出した「ポン」 一萬のポン。そしてこの捨て牌……。カオリの狙いはおそらくチンイツだ。 既に8000加点している状態からそんな大物手を作られては決定打になってしまう。これは絶対に阻止しなければ。 カオリの下家に位置するマナミはこれを見て放置しておく程あまい打ち手ではなかった。「チー」 ⑦⑧⑨をペンチャンチー(ドラは⑧)「ポン」 西をポン 瞬く間の2副露。マナミから一気にピンズホンイツの気配が出る。カオリの思考(うぐっ……! コレはやりづらい! ピンズはドラ色だ…… ここで無視
131.第十二話 呼吸 女流リーグ第1節でいきなり同卓となった財前姉妹と井川ミサト。3人がいきなり同卓というのは珍しいが、カオリたちの属する女流Bリーグは20人しかいないので当たる事自体は不思議でもなんでもなかった。 すると第1節の一回戦目からさっそくカオリとミサトは火花を散らして激突する! 女達の本気のバトルがいま最初の山場を迎えていた。カオリ手牌中中四六七八九(一二三チー)(白白白)ミサト手牌二三四伍⑥⑦⑧(4チー56)(④④④) ドラは④筒で親はミサト。お互いに満貫テンパイだ。そして、ミサト残りツモ2回というこのタイミングでミサトが引いてきたのは――ツモ三(三萬! いやコレはムリでしょ。いくらなんでも。流れる寸前になって萬子のホンイツテンパイがいるの知ってるのにこの牌切るやついないって。だけど…… これオリるの? 私、降ろされるの? それもキツイわ…… 親番でずうっと親満テンパイしてたのに、オリるってこと? まだ東3局なのに? ……つら)「……すいません」 珍しく長考するミサト(せめてテンパイ料くらい欲しいというか、親権を手放したくないわよね。だとしたら、待ちの枚数はこの際少なくてもいいんじゃない? どうせ流局濃厚なんだから多い待ちを取る価値はそんなにない。そして二、三、伍のうちで一番マシな牌と言えば?)打伍「ロン! 8000」「はい(う